映画「追憶」公式サイト

プロダクションノート

2015年2月―――降旗康男監督のもとに1冊の脚本が持ち込まれた。それは数年前、青島武と瀧本智行が書いたオリジナル脚本だった。過去にある経験をした3人の少年が、時を経て再会を果たす物語。そして、3人の少年に大きな影響を与えるヒロイン。このオリジナル脚本に興味を持った降旗監督は、ヒロインの設定を改編することを主張し、脚本の手直しが始まった。
同年8月―――降旗監督の意見も反映させた『追憶』の脚本が完成した時点で、東宝に映画化の話が持ち込まれた。降旗康男監督作品を待ち望んでいた東宝は、この企画にすぐにGOサインを出した。その時点で撮影の木村大作の参加も決定。これによって07年の『憑神』以来となる、降旗監督と木村大作のコンビが復活した。
主演には『永遠の0』(13年)、『蜩ノ記』(14年)をはじめ数々のヒットを飛ばし、幅広い層から支持を受ける、国民的俳優の岡田准一に主人公・四方篤役をオファー。かねてから日本映画界のレジェンドである降旗監督、木村大作のコンビと仕事をしてみたかったという岡田は出演を快諾。岡田の出演が決まったことで、彼と友情で結ばれる啓太役の小栗旬、悟役の柄本佑、長澤まさみ、木村文乃、さらにはヒロインの涼子を演じる安藤サクラ、吉岡秀隆など豪華な俳優陣が次々に決定していった。ここから本格的に『追憶』の撮影準備がスタートしたのである。

企画が動くと木村大作の行動は早い。脚本段階から彼は、この作品の映像テーマを“海に沈む夕日”に置いた。だとすればロケ地に適しているのは、日本海沿いの場所である。木村大作はこれまでプライベートでも日本全国の海岸線を巡り歩き、どんな自然の風景がどの作品に合うのかを熟知している稀有なキャメラマンだ。その彼が今回、ロケの候補地として選んだのは富山と能登半島を中心とする北陸地方。主人公3人が涼子と子供時代を過ごした“ゆきわりそう”を能登半島に設定すれば、現在富山で刑事をしている四方は、涼子がいる能登半島の方向に沈む夕日を観て毎日暮らしていることになる。
降旗監督は、この作品のテーマの一つとして『過去のユートピア』という言葉を使っているが、夕日は四方の子供の頃のユートピアの象徴でもあるのだ。木村にとって自然は、単なる実景描写ではない。そこに登場人物の心情を重ね合わせることで、撮るべき場所が自ずと決まっていくのである。

撮影は、2016年3月中旬、富山県で始まった。最初のロケ地は“風の盆”で知られる富山市八尾地区。両側に古い城下町のような旧家が並ぶなだらかな坂道を使って、四方たち刑事が、自分の子供を虐待死させた父親を捕まえる場面を撮影した。この日、木村大作は1日中手持ちキャメラで撮影を行った。最近でこそフィックスによる多重キャメラを使った撮影が多いが、木村大作がキャメラマンとして一本立ちした刑事アクション『野獣狩り』(73年)は、全編手持ちキャメラで撮られている。その躍動感あふれる映像によって彼は新鋭キャメラマンとして注目を集めたが、今回手持ちを使ったのには理由がある。四方の刑事の仕事と生活を描く富山での撮影部分は“ドキュメンタリー”に、啓太や涼子が登場する能登半島の部分は自然を背景にして“詩情”を感じさせる映像にしようという狙いなのだ。
ここでは現場に駆けつけてくる四方の登場シーンから、捕まえた父親に彼が怒りにまかせて掴みかかるアクションまで、常に動き回るキャメラワークには、生々しい臨場感があった。降旗監督と木村大作コンビの撮影スタイルは、テスト1回、本番1回を基本にしているため仕事が早い。彼らと長年組んできた高倉健は一発勝負の本番に全精力を傾けてくるタイプの俳優で、その一瞬を捉えるために、スタッフは万全の準備をして俳優のパフォーマンスを現場で待つという姿勢が、この組には備わっているからだ。彼らの仕事ぶりを伝説として聞いていた岡田准一も本番にかける気合は十分。初日から熱のこもった演技を見せた。
八尾での撮影は朝に始まり、昼前には終了した。そのまま富山市街に移動し、今度は富山中央署の屋上を借りて撮影を続行。ここでは最近夫婦仲と親子の関係がうまくいかず、悩んでいる四方に北見敏之扮する先輩刑事・豊田が心配して声をかける場面が撮影された。だが、木村大作のキャメラは現場の屋上にはない。6階建ての富山中央署の屋上にいる岡田と北見を、キャメラは道を挟んで真向かいにある8階建てのビルの屋上から800mmの望遠レンズで狙っている。この望遠レンズを使った奥行きのある映像も木村キャメラマンの特徴。キャメラマン助手として初めて就いた『隠し砦の三悪人』(58年)を始め、『用心棒』(61年)、『どですかでん』(70年)などの黒澤明作品の現場を経験した彼は、黒澤組の望遠レンズを使った撮影方法を受け継いでいる。そうなると俳優は数百m離れたところにいるキャメラに向かって演技をするわけで、通常の俳優では自分がどのサイズでどこまで撮られているのかわからない。そのため木村はレシーバーでキャメラのアングルを説明し、これに合わせて監督が俳優の動きを微妙に修正していく。このとき木村キャメラマンが感服していたのが降旗監督のいるポジション。どんなに離れていても、監督はキャメラが捉えている画角のすぐ外の部分に体をよけて、決してアングルの邪魔にならないところにいるのだという。降旗監督のようにキャメラに写るサイズを感覚的に知っている人は、今では少なくなったというが、こういうところにもベテラン二人の信頼関係が感じられる。

富山市から車で1時間ほどのところにある氷見・小杉漁港。木造の家が点在するこの漁港を使って、柄本佑演じる悟の初日を撮影。東京でガラス店を営む悟は、資金繰りに困りこの地へ金策にやってきた。そして何者かに殺された。撮影現場には、ミニパトを含めて警察車両が4台、他にも刑事たちが乗っている車両があり、さらに一報を聞いて駆け付けたマスコミや地元の野次馬が仕切り線の向こうに溢れているという、かなり大がかりなシーンだ。岡田を始め、北見敏之、三浦貴大、安田顕など刑事役の俳優が勢ぞろいし、柄本演じる悟の死体を検分する場面の撮影が始まった。ここで岡田は、殺された被害者が旧友の悟だと分かってショックを受け、気分が悪くなって死体から少し遠ざかる動きをした。その彼に北見が“大丈夫か”と声をかけるのだが、レールを敷いて彼らの動きを追っていたキャメラの動線から、岡田の動きが少し膨らんでずれた。木村キャメラマンはそれに合わせてレールを敷き直そうとしたが、すぐにそれを察した岡田が自分の動きを修正すると木村に進言。“ああいうときに自分が、どう動けばいいのか分かっている俳優は、松田優作さん以来だね”と木村大作は、岡田の反応の速さを絶賛していた。
この日、木村大作がこだわったのは、海にキャメラを向けたときに写る背景のカモメである。この地をロケハンで訪れた時から、彼はカモメを背景に入れ込もうと決めていた。しかしここにはトンビも多く飛んでいて、天敵のトンビがいるとカモメが寄ってこない。そこで考えたのが、キャメラに写らない場所にお菓子を撒いてトンビを引き寄せ、カモメだけを狙う場所に残す作戦。これは『北のカナリアたち』(12年)で実践し成功した方法だというが、今回は易々とうまくは行かない。お菓子を撒いてもトンビだけが動くわけではなく、カモメも移動を始めてしまう。結局いいポジションにカモメが来るまで待つことになった。岡田と柄本は、この“カモメ待ち”に時間をかける現場の状況を興味深く見つめていた。彼らにとっては、こういった木村大作の映像に対するこだわりに触れることこそが、伝説を体感することでもあったのだ。
この日の撮影で舌を巻いのは木村キャメラマンの時間計算である。大人数のエキストラにポジションの指示を出し、カモメまで待ってかなり時間をかけた感じがするが、撮影は午後2時前には終わった。この日の天気は、朝は晴れていたが午後から曇るという予報。しかし木村キャメラマンは、“曇りじゃなく雨になるぞ”と言っていた。降り出す前に撮影を終わらせると言っていたのだが、実際この日の全カットの撮影が終わって撤収作業を始めた瞬間、急に雨が降り出した。その見事な天気の変化の読み。これもまた、長年自然を相手に過酷な撮影をしてきた彼ならではの時間計算と言えるだろう。

舞台は富山市内に移って、四方と現在は別居している妻・美那子との場面を撮影。二人は美那子が子供を流産してから関係がぎくしゃくし、どこか距離感を感じている。一人暮らしを始めた美那子が保育士として働く職場に、四方が訪ねてくるシーンから撮影が始まった。これが撮影初日となる美那子役・長澤まさみは最初緊張していたが、実際に子供12人が遊び回る保育所の中で表情が自然とほぐれていった。そこに四方が訪ねてきて、二人は保育所があるビルの屋上へ移動した。屋上で二人は近況を語りあうのだが、どこか会話はかみ合わず、四方は仕事に戻っていくという芝居の流れである。立山連峰をバックにした二人の会話部分は、並んで話す彼らのバストショットを寄りのキャメラで狙ったが、去っていく岡田を長澤が屋上で見送るところは、このビルの屋上全体を見渡せる隣のビルの屋上から撮影した。ここで長澤は去っていく岡田に胸のところまで手のひらを挙げて、小さくバイバイをする。これは降旗監督の演出で、監督によれば四方に対する美那子の“あなたは自由よ”という想いが込められているという。もう自分のことは気にかけなくてもいいと思いながら、寂しさや未練を夫に残している美那子の切なさが、この小さなバイバイの仕草から感じられる。さりげない動きがキャラクターの心情を物語る、降旗監督の的確な演出がそこにあった。

富山市の赤十字病院を使い、りりィ演じる四方の母・清美が救急車で運ばれ、心配した四方と美那子が容態を見に訪れる場面を撮影。ここは木村大作が監督作『春を背負って』(14年)でも撮影に使った病院で、彼は“同じ場所でロケするんだから今度は違った映像表現をしたい”と言っていた。
清美の病室の外にある長い廊下での四方と美那子の芝居がメインとなるが、この廊下には所々で横から斜光のライトが射し込み、その突き当りの壁には絵画の額が掛けられている。それらはすべて映画のための舞台作りで、廊下は病室の出入り口以外は光と絵画だけが浮き上がった不思議な空間になっていた。廊下の一番手前には四方と美那子が話す談話室のスペースが作られていて、廊下はその背景になる。まずは芝居のリハーサルが行われたが、それが終わるとスタッフは黒いビニールシートを持ち出してきた。木村キャメラマンはそのシートを廊下全体に敷き詰めろと指示。ただこのシートは薄手で表面がツルツルしている。床には慎重に貼っていかないとシワが寄ったり、どこかに空気が入って脹れてしまい、作業がなかなか進まない。スタッフの一人がモップを借りてきて、全体をならしながら少しずつ貼り進めていく。だが廊下全体となると突き当りまで100m近くあるので、結局シートを貼る作業には2時間近く要した。準備を終えてライトをセッティングすると、黒いシートに光が反射して廊下全体がどこか異空間に見える。
このシート貼りの狙いを後に木村キャメラマンに聞くと、“まず、いつもの病院とは違った雰囲気にしたかったんだ。光がいくつかポツンポツンと入って、一番奥の額の絵が浮かび上がるだろう。あれはレンブラントの絵のような光の射し方をイメージしたんだよ。それともう一つは、この場面では病室の扉が全部閉めきっているよね。だからナイトシーンか夕景か分からない。リアリティで考えれば、見舞いに来る時間なんだから薄暮の夕景なんだろうけれど、ここは時間を感じさせない感じにした方がいいと思ったんだよ”と語ってくれた。時間と空間をリアルな病院の状況と切り離したことで、ここでは四方と美那子の存在感が際立ち、清美の容態を気にしながら夫婦が本音で互いの気持ちを静かに話し合うさまが、より印象付けられる場面になった。富山の部分はドキュメンタリー・タッチにしたいと語っていた木村大作だが、場面によっては映画的な効果を考えて徹底的に画を作り込んでいく辺りに、独特の映像センスを感じさせる。いつも仕事の早いスタッフだが、この日は珍しく、夜までの撮影になった。それでも“映画作りとは、意地を通すことなんだよ”と言ってシート貼りに悪戦苦闘するスタッフを鼓舞し続けた、自分の撮りたい映像を追求する木村キャメラマンの姿が忘れられない。

3月下旬に入ってロケ地を能登半島に移動。輪島市を基点に啓太や涼子のシーンを撮影した。
能登パートから加わった啓太役の小栗旬は輪島に着いたその日に、木村大作、岡田准一と食事を共にし、降旗監督からの伝言を木村から聞かされた。映画の中には重要なポイントで3度、四方と啓太が話し合う場面が登場するが、降旗監督はその部分のセリフを二人が言いやすいように変えてほしいというのである。岡田も小栗もこれには驚いたらしいが、撮影中にセリフ作りをすることを了解した。この2日後に撮影された啓太が営む田所興業の事務所の外で、悟殺しの容疑者になっている啓太を四方が問い詰める場面はセリフが脚本とは違っていた。啓太を問い詰めながら感情的になっていく直情型の四方と、その彼の言葉を冷静に受け止めるどこか大人びた啓太という、二人のキャラクターが出た場面になっていたのだ。岡田と小栗の二人はベースになる脚本のどのセリフが感情的に言えるのかを考え、それに対して相手がどう話すのかのリアクションを創造しながら、やり取りを作っていったという。“俺たちはもっと早く出会うべきだった”という四方のセリフは脚本には存在しなかった。このセリフを加えることで、25年間会わなかった四方と啓太の関係を前に進ませようと二人は考えたのだった。
また岡田と小栗は撮影が終わると連日木村大作と食事を共にして、木村が降旗監督とどのようにして高倉健の映画を作ってきたかという伝説を聞いていた。その席で岡田は、高倉健がよく本番ではセリフを台本から削ってしゃべっていたという話を聞いた。岡田自身も現場で、木村大作の映像がそこにいる人物の感情を代弁してくれると感じていた。つまり木村の映像を背負って演じる時には、すべてをセリフで説明するのではなく、映像と一体となることで伝わるものが重要なのだ。そこで彼は木村の映像が補ってくれる感情をイメージして、それ以外の四方と啓太の想いを、削り込んだセリフでどう表現すればいいかを考えたという。言ってみれば高倉健と同じ臨み方を、彼はこのセリフ作りによって自分に課したのだ。その岡田と小栗がどんなセリフを創造したのか。それは作品を観て確かめてほしい。

木村大作は一つのシーンで複数のキャメラを同時に廻す多重キャメラによる撮影を好む。多重キャメラで一気に多方面からのアングルで撮影をすれば、俳優に同じ芝居を何度もさせなくて済む。それはまた最高のテンションで芝居をする高倉健の動きや表情を、一発の本番ですべて撮り切るために最も適した撮影法でもあった。今回も基本的に現場では2台から3台のキャメラがいつも廻っていたが、時には撮影助手以外の人間にキャメラを廻させることがある。例えば3台廻すときのCキャメラは美術監督の原田満生が担当していた。彼は『北のカナリアたち』の時から木村大作にCキャメラを任され、この作品では見事なキャメラマンぶりを披露している。木村は“原田は最近、非常にうまくなってきている。キャメラを廻すというのは度胸を持った人なら誰でもできるんだ。俺自身が最初はそうだったんだから。また原田に廻させたのは、“映画作りというのはね、美術担当は美術さえやっていればいいというものじゃないんだよ。自分でキャメラを覗くことで、美術がどう見えているのかが分かる。だから美術に対する考え方も変わってくるんだ。それは原田自身もそう言っているよ”とその起用理由を語ってくれた。
またこの映画では主演の岡田准一がキャメラマンとして一度、撮影を経験している。“岡田准一君は、いずれ監督をやりたいと思っている気がするんだ。だから自分がどう撮られているかを、凄く研究している。そういう人だから撮影の最初の頃に、岡田君がキャメラを勉強したいとスタッフの誰かに言ったと聞いてね。それだったら廻させてやるよということで、やってもらったんだよ”(木村大作・談)。その岡田がキャメラを担当した撮影当日。ロケ地は東京都内某所。物語の重要なポイントになるのでどのシーンかは詳しくお伝えできないが、この撮影には刑事役の三浦貴大や安田顕も参加。三浦がある人物を連れて歩いてくるところを、岡田は道を挟んだ向こうからゆっくりとキャメラを横にパンさせながら狙う。さすがに緊張しているらしくファインダーを覗く彼は“まずいなあ。大丈夫かなあ”と言って、木村のもとへ画面のサイズを確かめにいった。本番1回目が終わると、木村が寄ってきて“もう少しスムーズにパンさせたほうがいいよ”とアドバイス。2度目の本番では岡田本人が自分で“OK”を出したが、他のキャメラの問題でもう1テイク。人物の配置と動きをセッティングし直すと、3回目の本番で今度は全部のキャメラからOKが出た。緊張の撮影が終わると岡田は木村のところへ行って“いつもと違う視点ですね。2回目くらいから慣れてきました。いい勉強をさせてもらいました”と感謝の言葉を述べていた。このとき岡田准一が撮った映像はちゃんと映画の中に使われているので、それがどこかを想像して観てほしい。

多重キャメラによる撮影で一番の見せ場になったのが、捜査会議の場面である。降旗監督作品には刑事ものは少ないが、その理由は捜査会議のシーンがあまり好きではないから。会議の場面は観ている人に事件の状況を理解してもらうにはどうしても外せないが、そこで話されることは説明に終始して面白味を感じないのだとか。それだけに今回は木村キャメラマンに“捜査会議のところでは、何か変わったことをやってください”というオーダーを出していた。そこで木村大作が考えたのは6台のキャメラを使って360度の全方向から捜査会議を捉え、一気に撮ってしまう撮影プラン。この人物を360度の方向から狙う撮影は、『春を背負って』の山小屋のシーンで木村が試したことがある。ただその時は出ている人物が数名だったが、今回は会議に出席している刑事たち、約30名を撮り切らなくてはいけない。そのため人物の並べ方に工夫をした。通常の刑事ドラマでは警察のトップが一番奥に並び、彼らと正対するように並べられたテーブルに刑事たちが座って、捜査状況を説明していく。しかし今回は奥に県警トップがいるのは同じだが、刑事たちは彼らと正対せず、コの字に取り囲むように机がセッティングされている。ただこれはロケハンで富山県警の捜査会議風景を見学させてもらった時に、やはり同じような机の配置をしていて、リアルな並び方なのだという。撮影は東宝スタジオ内にあるビルの1階ホールを会議室に作り替えて行われた。中に入ると奥には矢島健一など県警の首脳陣が並ぶテーブル、その右側に岡田や北見敏之、三浦貴大、安田顕など事件担当の刑事たちがいるテーブルがある。対面の左側にも高橋努など、他の刑事たちのテーブルがあって、左右を塞ぐように手前にもう一つテーブルがあるが、ここには誰も座っていない。キャメラは、まず手前のテーブルの後ろにレールを敷いて横移動できるキャメラが置かれ、これは正面にいる県警トップの人間たちや、立ち上がって説明をする刑事を主に追う。そのレールの後ろには、捜査資料などが入っているラックが壁一面に備え付けられている。このラックの背面を四角に切り取り、そこの穴から隠し撮りのようにレンズを入れて右側の岡田の横顔を定点で捉えるキャメラを設置。レールの左と右に1台ずつキャメラを置いて右側と左側のテーブルの刑事たちを狙い、奥には矢島たちの横顔を狙うキャメラがある。そして最後の1台はかなり離れた場所から岡田の正面が狙える位置に設置された。
次に約30人の俳優、エキストラを現場に入れて、木村大作の服装と身長のチェックが始まる。人物がどのように映るのかをチェックするまでが、木村大作の仕事。芝居のリハーサルが始まると、今度は降旗監督が“どうも全体に元気がない。捜査状況を説明する刑事たちは、自分を売り込むような調子を入れてみてください”と、各々の個性を説明の中に入れ込もうとする。朝9時から撮影準備を始めて、かなり長い捜査会議の芝居の動きやセリフのテンポを固め終わったのが午後1時。そこから本番はというと、一発で終わって2時には撮影が完了していた。準備に時間をかけて本番にベストのパフォーマンスが実現できれば、キャメラの台数の多さは問題ではない。出来上がった映像を見てもらえばわかるが、これが一発撮りとは到底思えない。多彩なカッティングがなされた見事なシーンになっている。その木村キャメラマンの見事な撮影法と、降旗監督の端的でありながら人物の特徴を出した演出の妙を見てもらいたい場面だ。